河川流・氾濫流一体解析による令和2年球磨川水害における建物流失率の検討 2023年6月13日 最終更新日時 : 2023年6月14日 柏田 仁 著者 柏田仁/東京理科大学 窪田利久/東京理科大学 平本達典/東京理科大学 山田真史/京都大学防災研究所 佐山敬洋/京都大学防災研究所 二瓶泰雄/東京理科大学 説明資料 230623_河川技術23(球磨川,柏田)Web掲載4
柏田先生
中央大学 後藤です.
以前もお伺いしたかもしれないのですが,建物の考慮方法について教えて下さい.
今回お示し頂いた解析では,建物は粗度係数で評価され,流れの通過フラックスには直接考慮されていないとの理解で宜しいでしょうか?(建物が流れを阻害する等)
そうであるならば,建物の流失・被災を検討する上では,建物周辺の流れの解析精度を高める必要があるかと思いますが,今後,その辺りも含めて解析モデルを改良されていくのでしょうか?柏田先生のお考えを教えて頂ければと思います.
後藤先生
ご質問頂き,ありがとうございます.
本論文で示している解析においては,建物は等価粗度係数,すなわち底面剪断力の増大によって考慮する事としています.この代替的な評価方法は簡易的である点は良いですが,根本的な流動構造が異なり,建物の構造(高さやピロティなど)を評価困難です.
流失・被災を検討する上では,建物周辺の流れ,建物にかかる流体力・モーメントを精緻に求める必要があるとの認識です.前者については計算効率を保持しながらより高解像なメッシュでの計算を行う手法,後者については個別の建物に作用する流体力を求める手法が必要であると認識しています.後者については,近々,報告することができる見込みです(途中段階については以前ご説明差し上げたものです).
柏田先生
ご丁寧にご説明頂き有難うございます.
後段に説明頂いたことが良く分かっておりませんので,もう一度,質問させて下さい.
後者(建物にかかる流体力・モーメント)の課題は,前者(建物周辺の流れ)の課題を仮に精緻に解析することが出来れば,自ずと評価できるのではないかと思いますが,あえて後者を同じ土俵として課題とされたのは何を意図してのことでしょうか?(文章にしずらいので,意味が分かりますでしょうか?)
後者については,建物の耐力との関係が課題のような気がするのですが,如何でしょうか?
後藤先生
ありがとうございます.
色々と混乱を招く記述になっていました.すみません.
まず,ご指摘のように,建物を十分解像できるようなメッシュを用いた計算を行うことができれば,APMで流体力を精緻に評価可能であることは論ずる必要が無いと思われます.
一方,現在の計算技術では,建物を解像するメッシュでの氾濫計算は高負荷となることから,①計算負荷を抑えながら高解像メッシュでの計算が可能な手法の開発,あるいは,②建物のスケールと同等程度のメッシュサイズでの計算でありながら,個々の建物にかかる流体力とモーメントを極力精緻に評価可能なサブグリッドモデルのようなものが必要である,という見解です.②については既に取り組んでおり,近々報告できそうです.
上記のいずれかの方法で得られた個々の建物への外力と耐力を比較し,被災の実態を再現することができれば,建物被災予測手法として有用になると考えております.
柏田先生
ご説明頂き有難うございます.
理解致しました.
今後のご発表楽しみにしております.
PS中に頂いた質問について掲載しておきます.ご質問頂いた皆様,ありがとうございました.
回答については,口頭では省略していた事項についても加えて記載しておきます.
(メモ不十分のため,漏れがあろうかと思います.ご容赦ください.)
Q.建物が流失し,下流側の建物に影響を及ぼすような効果は?
A.本モデルでは,建物を粗度係数として考慮しており,その破壊や流失は考慮していない.千曲川で行っている類似の検討では建物流失箇所の粗度係数を下げるといった検討を行っている.なんらかの閾値を与えて,自動的に流失を計算に反映することが可能である.なお,流失建物が流芥として流下し,衝突力として作用するような効果は見込んでいない.
Q.流失・浸水建物のプロットの外れ値をどう考えるか.
A.本検討の不確実性は,主に,建物耐力の不確実性と計算精度の不確実性である.前者については,新耐震・旧耐震,築年数,RC造・木造,ピロティ形式などの分けが本来必要なものをひとまとめに建物として取り扱っているところにある.これについては,改めて分析中である.後者については,建物を粗度係数に換算して取り扱っていることなどに起因しており,折角の3D計算であるので,個別の建物にかかる流体力の算定を組み込んだモデルの構築を進めている.
Q.流速はどのような値をみているのか?
A.今回の検討では,建物の重心位置の最近傍メッシュの流速を抽出している.また,評価の対象としているのは水深平均流速であり,本来評価すべき建物への接近流速ではないことに注意する必要がある.
Q.補正項の空間分布はどうなっているか?補正項が大きくなるところでは2D計算が困難である,と言ったことが見えるのではないか.
A.指摘のような分析は行えていない.今後の参考とさせて頂く.
Q.2D-3Dハイブリッドモデルでは,非静水圧は考慮しているのか?
A.東京理科大学としては現時点では組み込めていない.鉛直方向3D方程式が余っている状況なので,そこから非静水圧を算出するモデルを検討中である.類似の取り組みを長田先生が既に行っており,2D-3Dハイブリッドモデルは今後の拡張が期待されるところである.
Q.既往の建物流失指標との整合性はどうなっているか?
A.流速や水深の増大が流失のリスクを増大させる傾向は一致していると考えて良い.本研究では,極めて多数の流失・浸水被害から,既往検討のある程度の妥当性を確認できたことと,実際には一義的な流失指標を設定することが困難であり,被災率としてレッドゾーン・イエローゾーンといった形で評価せざるを得ないということが示された.これらは建物の構造等によって変わる可能性もある.